#009『相続登記の義務化』
Openbase代表のSanukiです
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。
今回は、『相続登記の義務化』について概要と注意すべき点などについて説明します。
相続登記の義務化
相続登記とは
まず、相続登記とは、何でしょうか。
土地、建物などのいわゆる不動産には、国や市町村も含めて「所有者」がおり、この所有者は、法務局で管理されている「登記」という制度によって、対外的にその不動産に関する情報(建築年月日、構造、面積、氏名、住所など)が閲覧可能な状態になっています。
その登記の名義人が亡くなった場合、相続によって取得した新たな名義人へ名義を変更する必要があります。もう少し、正確な言い回しをすると、“相続によって所有権が移転した“という内容の登記をする必要があります。
これを一般的に「相続登記」と呼びます。
相続登記の申請が受理されると、法務局の登記官が所有権の移転手続きを行います。これにより、相続人が正式に新しい所有者として登記されます。
相続登記は、遺産の所有権を明確にし、法的な紛争や混乱を防ぐために非常に重要な手続きです。
なぜ相続登記が義務化されるのか
冒頭に書いた通り、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。
相続登記という制度が昔からあったにも関わらず、なぜ今回、義務化されるのでしょうか。
それは、「義務化」という言葉の裏にある通り、今までは相続登記が任意的な手続きであったため、登記の名義人が亡くなってもそのままにされていたケースが多く、実際の所有者が登記上から判断することができない土地がとても多くなってきたからです。
2020年の国土交通省の調査によると、
① 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地 ② 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地 |
が、日本国土の24%にも及ぶことが判明しました。土地の広さに換算すると九州一帯と同じ面積が登記上所有者不明というから驚きです。
所有者不明の土地のうち、63%が、相続登記がされていないことが原因で、次に多い33%は、住所変更登記がされていないことが原因となっています。
登記上は所有者が不明であっても、実際は土地を管理している方がいる場合もあるかと思います。しかし、登記という制度は対外的(第三者)に土地の所有者であることを示す制度であるため、第三者から見れば、そういった土地は、もはや所有者が不明、と言わざるを得ません。
また、登記には所有者の住所は載りますが、電話番号までは載りません。住所が分かったとしてもその方が亡くなっていて既に空き家となっていたらどうでしょう。その不動産の所有者に対して何かを伝えたい場合、そこに郵便物を送っても届かない可能性があります。
また、根本的なことですが、市町村が管理する「住民票」や「戸籍」と、「登記」は連動していません。
なので、誰かが亡くなっても、住民票や戸籍のように(職員の手よって)自動的に亡くなったという情報が載ることもありません。登記上からは、その名義人が生きているのか亡くなっているのか判断がつかないのです。
また、同様に住所が変わって、住民票が書き換えられても、登記上の住所は自動的に書き換わりません。法務局に個別に「住所変更登記」という手続きが必要になります。これをしないと昔の住所が登記上にずっと載ったままとなります。
すなわち、相続登記や住所変更登記がされない土地が多くなり、現実の所有者が分からなくなってきたということが義務化の背景にあります。
相続登記が進まなかった背景
では、そうなるとなぜ相続登記が今までされなかったのかという話になります。任意的な手続きだったからというのはもちろんありますが、ひとつは「所有権」という権利の強力さにあります。
「所有権」という言葉自体は聞くこともあると思いますが、法律的な観点から「所有権」という権利はとても強力な権利として知られています。「賃借権」「地上権」「地役権」「占有権」「抵当権」など、権利について定めている民法の中でも、所有権は、物を直接支配する“絶対的な権利”として扱われています。
強力な権利がゆえに、その所有権を持つ者(所有者)というのは、慎重に決定させる必要があります。
つまり、自分が間違いなく所有者である(相続人である)という証明をするために、相続登記の申請には、多くの書類が必要です。具体的には、戸籍であったり、住民票であったり、遺産について協議をおこなった実印で押印済みの遺産分割協議書、それに添付する印鑑証明書などが必要となってきます。
また、複雑であるため、手続きには司法書士や我々行政書士などの専門家が関与するケースが多く、登記を完了させるための費用も必要となります。
そういった手続きの大変さがある一方で、相続登記が「任意」で、かつ「罰則」もないという状況であったため、結果的に、何十年にも渡って日本で相続登記が進まなかった ということが今回の義務化に繋がっています。
行政としても、平成30年より長期相続登記等未了土地や、表題部所有者と呼ばれる住所が載っていない少し特殊な土地についての調査・解消作業を進めています。
また、相続登記に必要だった税金(登録免許税)についても、平成30年から一定の条件を備えた土地については免税措置をとったり、ここ数年少しずつ対策を行ってきています。
義務化の内容と罰則
では、ここで、義務化の内容と罰則について見てみましょう。
簡単に言うと「名義人が亡くなったことを知った日から3年以内に登記をしてください」という話です。正確には、所有権の取得を知った日から3年を数え始めるため、自分が不動産の相続の対象者であると知った時がスタート地点となります。
例えば、交流の無い親族の相続人(不動産を含む)になってしまっていて、それを知らなかった場合、知らない間は3年のカウントはスタートしていません。
令和6年4月1日以後に登記の名義人が亡くなった場合は、そのような「知った時からカウントする」という考えでよいのですが、それ以前に既に名義人が亡くなっており、(相続登記がされないまま、)知ってから3年以上経過しているという方に関しては、法律の施行日である令和6年4月1日が3年の起算日(開始のスタート地点)となります。
つまり、その場合、令和9年3月31日が登記の期限となります。(ただし、こちらも自分が不動産の相続の対象者であることを令和6年4月1日以後になっても、ずっと知らなかった場合は、それを知った時からカウントがスタートします。)
なんだ3年もあるならまだ大丈夫かと思うかもしれません。確かに、罰則という観点からみるとそれは正しいですが、相続登記自体は早めに行っておくことに越したことはありません。
何故なら時間が経てば経つほど相続関係は複雑化する可能性があるからです。
具体的には、相続人の一人に死亡、婚姻、離婚、転籍など戸籍に変動が生じた場合には、手続きにより多くの戸籍が必要となったり、関与する相続人が増えたり、あるいは変わったりすることがあるからです。そうなると時間と費用が余計に掛かるということにも繋がってしまいます。
最悪の事態としては、相続人の一人に「非協力的」な方が出てきて、協議がまとまらず、相続の手続がストップしてしまうということもあり得ます。
これは、時間が経ち、複数の相続が発生し、相続人が枝分かれ的に増えていってしまった結果、おおもとの亡くなった方(被相続人)と相続人との間に面識がない、あるいは相続人同士で面識が全くないという状況が生まれてしまうことがひとつの原因ともいえます。
想像してもらえれば分かるかと思いますが、まったく普段面識のない親戚を含めて、全員で協議を行わなければならないというのは、ややハードルが高い事態です。親戚とはいえ、まったく面識がない人の手続きには、あまり関わりたくない、あるいは自分には関係ないと思う方も一定数いらっしゃるので、これは本当に注意すべきところです。
そして、何より先ほども書いた通り、「所有権」という権利は非常に強力な権利なので、相続が発生するとそれぞれの相続人の権利に割合に応じて、相続人全員が所有権を「共有」して持つことになります。
相続において所有権を持つと、その権利を放棄するにしても、誰かに譲るにしても、きちんとした手続きを踏まないと他人に譲ることができません。
「面識がないから」、「うちの家系が管理している不動産じゃないから」、「要らないから勝手にそっちで進めて」の一言では、片付けられないのです。
非協力的な相続人には、そういったことを理解してもらう必要があるため、大変なのです。
義務化の具体例
ここで義務化の一例を挙げてみます。下記のように(令和6年4月1日以後に)父が亡くなったとします。この家には、父名義の不動産がありました。
令和6年4月1日以降に父親が亡くなり、母と子どもたちが法定相続をしたケース
特に遺言等が無い場合、母、子ども3人が相続人になります。民法で定められている相続人ということで、これらを「法定相続人」と呼びます。
このとき、各相続人は、それぞれ、民法で定められた法定相続分の範囲で不動産について共有の所有権を持ちます。具体的には、母が2分の1、子どもたちそれぞれが6分の1ずつの割合です。計算方法は、今回は割愛します。
この共有の所有権のことを「持分」と言います。
また、この家族では、父が亡くなったことについて全員が同じタイミングで知ることになりました。
そうすると、そこから3年以内にその持分(法定相続分)に応じた共有の相続登記をする義務が、母、長男、二男、三男それぞれに生じてきます。
義務化のルールの(1)の方の義務ということです。父親が亡くなったことによって、自動的に法定相続分に応じた持分を取得するのです。これは法律的な概念の話なので、実際に誰が住んでいるなどは関係がありません。
しかしながら、現実の実務において、法定相続分どおりの共有の登記がなされることは少ないです。
何故なら、不動産を共有関係にすると所有権の力も分散することになり、管理や処分が大変になるからです。また、その後に名義人が亡くなった場合、共有持分についての相続が発生し、権利関係がさらに複雑になる可能性があります。
法定相続分の登記もメリットがないわけではないですが、現実的にはデメリットの方が大きいと思われます。
ただし、だからといって放置をして良いわけではありません。3年以内に何らの登記も行わず、放置していると母、長男、二男、三男それぞれに過料の可能性が生じてきます。
そこで、現実の実務では、不動産に関しては、話し合いの結果、特定の誰かが相続人となるケースが多いです。その話し合いのことを「遺産分割協議」と呼びます。
遺産分割協議によって、不動産を相続するのが長男となった場合、長男は、そこから3年以内に相続登記をする義務を負います。義務化のルール(2)の方です。
遺産分割協議によって長男が不動産を相続することになった
もう一つ、長男の義務と同時に発生する効果として、遺産分割協議の結果、不動産の相続人にならないことになった母、二男、三男は、この義務化の対象から外れることになります。
協議前までは、義務化の対象として放置すると過料の可能性が全員にありましたが、(過料の可能性が無い3年を超える前に)遺産分割協議をすることで、その可能性がなくなりました。協議成立によって、相続登記義務化の対象者が「長男」のみに切り替わった為です。
まとめ
このように、義務の対象となる人が変わってくることもあるため、相続登記の義務化の制度は、少し複雑で分かりにくいのが正直なところです。
罰則である10万円以下の過料(行政上の罰)についても、正当な事由があれば、課されないとなっており、その内容もやや細かく曖昧です。
また、正当な事由がない場合でも相続登記の前に「相続人申告登記」という新たな登記制度を利用することで、過料の可能性を回避する手段もあります。
その他、相続した不動産を不要で手放したい場合に、国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」という制度もあります。
この辺りについては、また別の機会に書きたいと思います。まずは、4月から相続登記が義務化されるということを頭に入れておいて、なるべく早めに対応すること心掛けておけば、それほど問題はないでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご家族の相続について気になった方、ご不明な方は、まずは、お気軽にご相談ください。
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